SYMPOSIUM
WHAT’S GOING ON (AI NO YUKUE): HOW ART MAKES SENSE
WHAT’S GOING ON(愛のゆくえ)
──アートはいかにして現実をとらえるか
アートはしばしば、現実を批判的に見つめ、「いま何が起きているのか」を考える手がかりとなってきました。ここ数十年、アートはドキュメンタリー化の傾向も強めています。一方でわたしたちが忘れてはならないのは、アートには私たちの目の前の現実を超え、より高められた、あるいはもうひとつの現実を示す力があること、そして、アートが寓話やフィクションといった間接的な語り方によってこそ、もっとも強く私たちに語りかけてくることです。気候変動や戦争、社会的不平等といった複数の危機が複雑に絡み合い、地政学的な緊張や言論への制限も強まる今、私たちはアートに何を期待できるでしょうか。丁寧で建設的な対話によって築かれてきた共通の理解や現実感が揺らぎ、世界の出来事が混乱と矛盾の霧に包まれているこの時代に、アートは何を語ることができるのでしょうか。
本シンポジウムのタイトルの由来は、ベトナム戦争に対する世界的な反戦・平和運動がピークを迎えていた 1971年にリリースされたアメリカのミュージシャン、マーヴィン・ゲイの画期的な抗議アルバム『What’s Going On』です。このアルバムは、一見遠く複雑に見える地球規模の問題が、いかに突然身近な現実として立ち現れるかを描き出しています。同名の収録曲は、1969年5月、作曲者のひとりであるレナルド・「オビー」 ・ベンソンが、自身のバンド「フォー・トップス」のツアー中にカルフォルニア大学バークレー校で学生と警察の衝突を目の当たりにしたことをきっかけに生まれました。その後のアルバム制作は、ベトナム戦争から帰還したゲイの弟フランキーとの対話に大きな影響を受けています。フランキーは、戦場での体験によって深い心の傷を負い、平穏な日常へと戻ることに苦しんでいたのです。アルバムの他の楽曲では、社会的不正、薬物乱用の蔓延、環境破壊といったテーマが扱われ、その後、全米のポップチャートでも大きな成功を収めました。
アルバム全体を通して歌詞はシンプルながら、ソウル、ブルース、ジャズの要素を組み合わせ、ゲイ自身のリードボーカルを多重録音によってポリフォニックに重ねるなど、実験的な編曲により力強いものになっています。
Picket lines and picket signs(抗議の列にプラカードが並ぶ)
Don’t punish me with brutality(暴力で僕を罰するのはやめてくれ)
Talk to me(話してほしい)
So you can see(そうすれば あなたにも見えるはず)
Oh, what’s going on(おお、いったい何が起きているのか)
ゲイの発した問いかけと挨拶、抗議を兼ねた言葉は、アートへの呼びかけとしても読むことができます──物事にじっくり向き合い、語り合い、多角的な視点から眺めるための時間を持とう、と。アルバムで提示された問題の多くが50年たっても未解決であるのは残念なことですが、日本では『愛のゆくえ』の邦題でリリースされたこのアルバムは、アートが時代や言語を超えて語り続けることの証として私たちに語りかけてきます。
本年のシンポジウムでは、国際的に活躍する3人のキュレーターを迎え、「いま、アートで何が起きているのか」「アートはいかにして世界を理解しようとしているのか」について、彼らの近年あるいはこれから開催予定の展覧会プロジェクトを通じて語ります。基調講演はニューヨークのソロモン・R・グッゲンハイム美術館副館長兼チーフキュレーター、また2027年の「ドクメンタ16」のアーティスティック・ディレクターを務めるナオミ・ベックウィスが務めます(日英同時通訳)。
※本シンポジウムは、アートウィーク東京(AWT)のエディトリアル・ディレクターであるアンドリュー・マークルと特定非営利活動法人アーツイニシアティヴトウキョウ(AIT)ディレクターの塩見有子がAWTのために企画し、慶應義塾ミュージアム・コモンズ、慶應義塾大学アート・センターと共同で開催します。
登壇者
ナオミ・ベックウィス
NAOMI BECKWITH
基調講演者

アダム・シムジック
ADAM SZYMCZYK
登壇者

岡村恵子
KEIKO OKAMURA
登壇者

アンドリュー・マークル
ANDREW MAERKLE
モデレーター

日程:11月7日(金)18:00–20:00
会場:慶應義塾大学 三田キャンパス 西校舎ホール/港区三田2-15-45
料金:無料、事前申込制
※ 申込受付開始は9⽉中旬を予定しております。
定員:800名
※定員に達し次第受付終了
言語:英語・日本語(同時通訳あり)