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セクション  10

次元の加減

西洋から油彩画が入ってくる以前の、つまり19世紀以前の日本の絵画は、主として、建築内部を装飾するものとして存在していた。軸は床の間と呼ばれる、壁の一部がニッチのように凹んだ空間の壁に掛けられ、四季を彩った。屏風は、板の間、あるいは畳の敷き詰められた空間で、時に人の背景となる装飾として、時に仕切りとして、時に光を反射させる臨時の壁として機能した。襖絵は、部屋と部屋を仕切る可動式のパーティションであり、障壁画や天井画はその名の通り室内空間を構成する「面」となった。建築装飾の役割を担わないものとしては巻子かんすがある。これは主に、文字と絵を交互に連ねて、寺社の歴史や古の物語などを表したもので、普段は巻いてあり、見る時には見たい部分だけを拡げる。

軸や巻子は、見る時には2次元的な平面だが、収納する際には巻くことでコンパクトになると同時に3次元化する。屏風は、収納している時は厚みのある2次元(事実上はシンプルな3次元)だが、展示する時には、上から見たらジグザグとなるように、部分的に折って自立させる。つまり少し複雑な3次元となる。

こうした日本の伝統的な形式による絵画は、基本的に床の上で描かれてきた。障壁画も天井画も床に置いた紙や木などに描いた後、それに枠をつけるなどした上で、建物の一部にはめ込まれた。レオ・スタインバーグがロバート・ラウシェンバーグのシルクスクリーン作品に確認した「フラットベッド絵画面」という在り方は、こと日本の絵画について言えば、伝統的な特徴とすら言える。

日本の絵画には、長い間、制作や鑑賞の大前提として、角度や次元を変化させることが織り込まれてきた。この事実について、今日、日本で制作するアーティストがどこまで意識的なのかは正直わからない。けれども、事例を見渡す限りにおいて、日本では、絵画的イメージにおける2次元性と3次元性(あるいは4次元性)の問題よりも、絵画というジャンルの形式そのものにおける角度や次元の可変性に着目した作品に興味深いものが多い、そう言うことはできるのではないか。

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