青木陵子
b. 1973
ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 2–5, 2023
セクション 12
ポストヒューマンの時代に対して、アーティストたちはこれまでも新しい人物像を果敢に提出してきた。それらの多くは、写真や映像を駆使したSci-Fi的な表現によりつくりあげられた未来の人物像であったが、現実の方は加速度的に変容している。ウェアラブル端末の流布。ChatGPTなど生成AIの実用化。2023年5月には、イーロン・マスクが率いる企業が脳インプラントの臨床実験の実施許可を得たというニュースが世界を駆け巡った。
こうした状況で必要となるアーティストの役割は、先を見通すことよりも、根源へと立ち返ることかもしれない。たとえば、人間を、食欲や性欲に突き動かされる肉体を抱える存在として(川内理香子[cat. nos. 101, 102])、あるいは動物性や植物性の両極を備える存在として(松下真理子[cat. no. 100])捉え直すこと。アジアの木彫が培ってきた素朴と聖性のハイブリッドな表現も手がかりになるかもしれない(大竹利絵子[cat. no. 105])。平凡に見える生活をどうやって寿ぐかという試み(青木陵子[cat. nos. 95–98]、モリマサト[cat. no. 99])や、音楽やキャラクター抜きに語ることのできない社会をどう受け止め、表象するかという試み(楊博[cat. no. 103]、鵜飼結一朗[cat. no. 104])も重要である。それらは、変動する世界への反動に見えるかもしれないが、反動の精神の許容なくしてアートの価値はない。