磯崎 新
1931–2022
ART WEEK TOKYO | NOVEMBER 2–5, 2023
セクション 06
人体の表現にルーツを持つ彫刻作品は、自らの「マッス(量塊)」によってどのように「ヴォリューム(量感)」を感じさせるか、そして、そのマッスとヴォリュームがどのように「ムーヴメント(動感)」を感じさせるかを追究する芸術である。
20世紀に入り抽象彫刻の登場とともに新しく登場した観点が「空間」である。アーティストたちは、マッスやヴォリュームやムーヴメントは基本的には無視して、幾何学的な要素を配置することによって、日常的生活では等閑視されていた空間がヴィヴィッドなものとして感じられる、そんな場が生まれることを目指した。さらに戦後には、新しい技術や素材を取り入れ、そこに光、色、音などのファクターが加わり、それは「環境」というタームで評価されるようになる。日本では、まさに1966年に、東京で、「色彩と空間」展、そして「空間から環境へ」展と題した展覧会が開催されている。
さて、以上はいわゆる美術=ファインアートの世界の話である。工芸の世界には、「陶彫」とか、用を持たない陶芸=焼き物であることを強調するべく「オブジェ焼き」と呼ばれる作品群がある。興味深いことに、そこからヴォリュームや空間を感じることはほとんどない。だからといって、陶芸家たちの試みを否定する必要はなく、彼らは、人体表現をルーツに持つ彫刻とはおよそ異なる関心を持っていたと考えるべきだろう。そもそも、陶芸家であれば一度はつくる器や皿は、小さくても豊かな空間が自ずと生成されてしまう形式である。だから、用を持たなくてよい作品においては、むしろ、マッスがあってもヴォリュームや空間を生成しない禁欲的なオブジェをつくろうとしていたのではないか。