中森康文
写真家・美術家は何をみたか:
日本の写真における実験 1968—1979
本トークでは、1968年から79年にかけて、写真家や美術家によるカメラを用いたさまざまな実験の軌跡を辿る。1960年代の学生運動と前衛的な芸術活動から、1968年以降の10年は、経済的な不安や政治離れ、芸術においては内省的な傾向に変化していったため、大戦直後の数年に比べると、大きな出来事がないようにも見える。しかし、ここで明らかにされるように、1970年から10年は、美術家がさまざまな表現手段を通じて社会の変化に呼応し、芸術の新たな方向性を打ち出す上で重要な時期であった。彼らは北米や欧州から発信される動向を意識しながらも、独自の考えや表現を生み出し、またそれを広めようと試みていた。美術家たちは個人として、あるいは集団の一員として活動し、出版物やあらゆる展示スペースでその創作を発表した。彼らは実験主義やコンセプチュアリズムのための効果的なメディウムとして写真を捉えるようになり、写真家たちは近代社会の制度が崩壊しつつあることへの批判的な意識を美術家たちと共有した。本トークは、2015年から16年にヒューストン美術館で開催された「来るべき世界のために 日本の写真と美術の実験 1968-1979」展、および同タイトルの書籍のために中森が行った調査をもとに、表現者たちがどのように社会の制度を解きほぐそうとしたのかについて解説する。
字幕翻訳:田中有紀
映像制作:ネーアントン合同会社
中森 康文
米国ウィスコンシン大学ロースクール卒業 (ニューヨーク州弁護士)。2009年コーネル大学美術史博士課程修了。 米国ヒューストン美術館写真部門キュレーター(2008-16年)、ミネアポリス美術館写真ニューメディア部門長(2016-18年)、テート・モダン インターナショナル・アート写真部門シニア・キュレーター(2018-22年)を経て、2023年8月より芸術文化担当副代表兼アジア・ソサエティ美術館館長。 テート・モダンでは、ザネレ・ムホリなどの写真展を手がけたほか、写真コレクションの発展に努める。また、2020年から22年まで、人種差別に向き合い、テート組織内の公平性と多様性の目標を検討して提言する人種平等特別委員会(Race Equality Task Force)のメンバーも務めた。 ほかにこれまでに手がけた主な展覧会・著書には、1960年以降のコンセプチュアル・アートと写真の系譜を主題とした「Ruptures and Continuities: Photography Made after 1960」展 ヒューストン美術館(2010年)、『桂:日本建築の創造と伝統』(丹下健三と石元泰博による共著、1960年)に焦点を当てた『Katsura: Picturing Modernism in Japanese Architecture, Photographs by Ishimoto Yasuhiro』(2010年、The Museum of Fine Arts, Houston in association with Yale University Press、2011年にアルフレッド・H・バー・ジュニア賞を受賞)などがある。そのほか近現代写真および建築に関するものに加えて、著作権と写真の関係にまつわる著作多数。これまでにハーバード大学デザインスクール、ニューヨーク近代美術館、コーネル大学などで講義を行う。