五十殿利治 x アンドリュー・マークル
ナショナル/インターナショナル/トランスナショナル:戦間期の日本におけるアートと社会の関わり
1920年代から1930年代は、日本において政治的・社会的・文化的に大きな動乱の時期だった。第一次世界大戦の戦勝国として、アジア太平洋地域で影響力を拡大しようとしたが、国内では反帝国主義的な労働者運動が広がり、断続的な政治的暴力によって政府が不安定に、1923年の関東大震災から1929年のウォール街大暴落までの出来事が、国内のさまざまな側面に影響を及ぼした。日本の芸術家たちは、これらの状況にあらゆる方法で対応している。国際的なネットワークと接続した1920年代の先駆的な一部の芸術家たちは、未来派、ダダイズム、構成主義など実験的な表現と活動のあと、プロレタリア美術運動の活動に傾倒していった。1930年代に国家の権威主義が強まる中、次世代の芸術家たちはシュルレアリスムや抽象主義などに転じ、国の機関はフォトモンタージュのような最先端のグラフィック技法と時代を超えた古典的な日本のエッセンスを想起させるイメージを織り交ぜ、ソフトパワーのビジュアル・ブランディング・キャンペーンを国内外で展開した。この時期の芸術は、戦後の前衛芸術ほど広く知られていないが、ナショナル、インターナショナル、トランスナショナルな文脈で、新しい芸術がどのように展開されていくかについて興味深い洞察を与えてくれる。
対談では、この分野の第一人者である五十殿利治氏が、アートウィーク東京のアンドリュー・マークルとともに日本の戦間期の芸術運動について語り、これはまた、ポストパンデミックの世界におけるソーシャリー・エンゲージド・アートがはらむ可能性と落とし穴についても示唆するだろう。
字幕翻訳:佐藤大輔
映像制作:ネーアントン合同会社
五十殿利治
美術史家、筑波大学名誉教授。1951年東京都生まれ。1975年早稲田大学卒業。1978年同大学大学院修士課程を修了、同年同後期課程を中退し、北海道立近代美術館学芸員。1985年筑波大学芸術学系講師となり、近代美術史、とくに1920年代・30年代の美術について国内外の事例の研究を進める。1995年「大正期新興美術運動の研究」により毎日出版文化賞奨励賞受賞。2002年筑波大学芸術学系教授。2009年同大学院人間総合科学研究科長。2017年筑波大学を定年退職し、同大学特命教授・名誉教授。2018年「非常時のモダニズム 1930年代帝国日本の美術」により芸術選奨文部科学大臣賞受賞、同年独立行政法人国立美術館理事。
アンドリュー・マークル
アートライター、エディター、翻訳家。『ArtAsiaPacific』副編集長を経て、現在は『ART iTインターナショナル版』副編集長を務める。『Artforum』『frieze』などに寄稿。主な翻訳に、フー・ファン(中英)や田中功起の執筆(和英)。主な出版物に、菅木志雄論集第1巻の英訳版(Skira社、2021年)。東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科非常勤。