中嶋泉
続アンチ・アクション:戦後日本女性アーティストの革新とは?
中嶋泉(美術史学者)による本レクチャーでは、第二次世界大戦後、1950、60年代の日本における女性アーティストに注目し、この国の美術制作におけるジェンダー状況と創作の関係について考察する。
戦後の日本では若い女性アーティスト、とくに同時代に世界を席巻した抽象芸術に取り組むアーティストが、民主主義、個人の自由を象徴する存在として大きく注目を浴びた。
彼女たちの作品の意味を再考するために、中嶋による著書『アンチ・アクション―日本戦後絵画と女性画家』の議論を少し拡大するかたちでジェンダー的視点に基づいて解説する。
あるアーティストの表現を性別のみから語ろうとすれば限定的な理解となる可能性がある。しかし、アーティストは、意識的か無意識的かにかかわらず、美術もその一部である社会の要請や期待を受け止め、創作を通じてそれらに応答し、挑戦している。
旧家の出身の少女だった草間彌生はなぜニューヨークで大画面の絵画を制作したのか?電気ドレスをまとい、目にも鮮やかな絵画を描き続けた田中敦子が、具体のほかの男性アーティストを凌ぐ評価を受けたのは?多田美波の光を移し、透過するアルミやアクリルの作品や、宮脇愛子が空間を横切らせる大きな弧は、都市を変容させる大型建築や公共彫刻のあいだに置かれることで何を成し遂げたのか。
「主流」の美術史のなかでは説明しきることのできない彼女たちの創作の革新性を考えるとき、ジェンダーの視点は作品解釈をより豊かにしてくれるだろう。
中嶋泉
大阪大学大学院文学研究科准教授
一橋大学大学院言語社会研究課修士課程、リーズ大学大学院修士課程を経て、2013年度一橋大学大学院言語社会研究科にて博士号取得。広島市立大学芸術学部准教授、首都大学東京人文科学研究科准教授をなど経て、2016年より現職。専門分野は近現代美術、フェミニズム美術、フェミニズム・ジェンダー理論。
日本の女性作家の調査を進めており、聴き取りも行なっている。主な著書に『アンチ・アクション―日本戦後絵画と女性画家』(ブリュッケ、2019年、第42回サントリー学芸賞受賞)、『Past Disquiet: Artists International Solidarity and Museums-in-Exile』 (University of Chicago Press, 2018年)などがある。