毛利悠子 × ミン・ウォン
東京、そしてその先へ:芸術活動における文化的翻訳とは
日本の芸術には、中国や韓国をはじめとする国際的なアヴァンギャルドからの影響を受けながら異なる文化や芸術を受け入れ融合する「シンクレティズム」の伝統があります。同時に、アニメから木版画、禅の修行に至るまで、日本文化は国際的なアートシーンへも多大な影響を与えてきました。カリブ海のフランス領マルティニーク出身の作家であり詩人のエドゥアール・グリッサンは「自己の感覚を失ったり希薄にしたりすることなしに、私は他者とのやり取りを通して変わることができる」という言葉を遺していますが、シンクレティズムの歴史に目を向けたとき、そこからは今日のグローバル文化の矛盾と可能性についての洞察が見えてきます。このトークでは、今年の第60回ヴェネチア・ビエンナーレの日本館でサウンドアートとキネティックアートを織り交ぜた個展「Compose」を開催している毛利悠子と、ベルリンを拠点とし、日本でも多くのプロジェクトを手がけてきたシンガポール人メディアアーティストのミン・ウォンを招き、ふたりの作品における文化的翻訳とハイブリディティ(混成性)の問題について議論します(モデレーター:アンドリュー・マークル)。
毛利悠子
美術家。コンポジション(構築)へのアプローチではなく、環境の諸条件によって変化してゆく「事象」にフォーカスするインスタレーションや彫刻を制作。近年は映像や写真を通じた作品制作も行う。第60回ヴェネチア・ビエンナーレ(2024)日本館代表。また、第14回光州ビエンナーレ(2023)、第23回シドニー・ビエンナーレ(2022)、第34回サンパウロ・ビエンナーレ(2021)、第14回リヨン・ビエンナーレ(2017)、ヨコハマトリエンナーレ2014など国内外の展覧会に参加。2024年11月よりアーティゾン美術館での個展を開催予定。また、25年にはソウルの国立現代美術館、ミラノのピレリ・ハンガービコッカでの個展を控える。
ミン・ウォン
美術家。シンガポール生まれ、ベルリン在住。パフォーマンスや映像をはじめとする様々な手法を用いて、世界の映画や大衆文化を再現し、表象の政治性や文化的アイデンティティがどのように再生産され流通するかを探求している。
「第53回ヴェネチア・ビエンナーレ」シンガポール館代表、審査員特別表彰を受賞(2009年)。主な展覧会に、「シドニー・ビエンナーレ」(2024年)、「Signals: How Video Transformed the World」(ニューヨーク近代美術館、2023年)、「Wayang Spaceship」(シンガポール美術館、2022年)、あいちトリエンナーレ(2022年)などがある。彼が手がけたレクチャーパフォーマンス「Rhapsody in Yellow」は、「Steirischer Herbst」(グラーツ、2022年)、「Berliner Festspiele and Spielart」(ミュンヘン、2023年)、「Aktuelles KunstFestSpiele Herrenhausen」(ハノーファー、2024年)などの国際展で上映された。
アンドリュー・マークル
東京在住のライター、編集者、翻訳家。2021年よりアートウィーク東京のエディトリアル・ディレクターを務める。2010年から2024年まで、バイリンガルのオンライン出版「ART iT」の副編集長。2006年から2008年までニューヨークのArtAsiaPacificの副編集長を務め、毎年発行されるAlmanacの編集に携わる。『Aperture』、『Art & Australia』、『Artforum』、『frieze』などの国際誌に寄稿。主な出版物に、菅木志雄論集第1巻の英訳版(Skira社、2021年)。2018年から2023年まで東京藝術大学大学院国際芸術創造研究科で教鞭をとる。
本トークはアートバーゼルとのコラボレーションにより実施されました。